蒼き巨竜―白き地に刻まれた軌跡
七竜暦76年水地月6週7日。光竜神聖国の生態観察エリアは、深い霧に包まれていた。早朝からの調査で、私は原竜の新たな足跡を発見していた。Triple Diamondランクのハンター、ボルト・ストームハンターと合流したのは、その直後のことだ。
「新しい足跡です。まだ雪が溶けていない。この先にいるはずです」
私の言葉に、ボルトは無言で頷いた。彼の目には、狩人としての鋭い光が宿っていた。
霧の向こうから、巨大な影が浮かび上がった。青緑の鱗と金色の腹部、そして赤い翼を持つ原竜だ。その姿は圧倒的で、大地すら震えているように感じた。
「あいつは危険すぎる。この近くには村がある。討伐すべきだ」
ボルトの声は冷たく響いた。
私は黙って観察を続けた。原竜は獲物を捕らえると、一気に仕留め、その場で捕食を始めた。無駄な殺生はない。むしろ、その狩りには厳密な効率性があった。
村での聞き込みで、家畜被害の報告は確かにあった。しかし、その数は限られている。原竜は明確な縄張りを持ち、その範囲内でのみ行動していた。
「ハンター殿。この原竜、確かに危険です。でも、それは人間の都合での判断ではないでしょうか」
「何が言いたい?」
「自然界にとって、この原竜は必然的な存在なのです。私たちにできるのは、互いの領域を理解し、尊重することだけではないでしょうか」
ボルトは長い沈黙の後、ため息をついた。
「面白い観点だ。だが、それは理想論に過ぎない」
そう言って立ち去る彼の背中を見送りながら、私は記録を続けた。善でも悪でもない。ただそこに在る存在。それが原竜の本質なのだと。
霧の中、原竜は悠然と飛び立った。その姿は、厳冬の空へと溶けていくように消えていった。
私の観察記録に、新たな一頁が加わった。蒼き巨竜との出会い。それは、人が作り出した善悪の区分を超えた、自然界の真実を映し出す鏡となったのかもしれない。

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